- HEAVEN -


 乾いた指先が、脇腹から胸元へ、滑るように移動して行く。
 両手を付いた獣の格好で、既に相手の欲望を内部に埋め込まれている状態では――お互いの肌も息も湿り気を帯びていて、なのにその不確かな愛撫だけが、やけにリアルに啓介の感覚を刺激する。
「‥‥ッ、あ‥」
 まるで自在が効かなくなった口唇から、勝手に漏れた自分の声を追うように、閉ざしていた目蓋を薄く持ち上げる。
 ――が、後ろから責めている相手の姿が見えるでもなく、霞んだ視界を占めるのは真っ白なシーツの海で。変わらぬ緩慢な煽りと同じで、どちらを取っても大差はなかった。

 だったら。億劫だから、再び視界を閉ざす。
 頭のすぐ後ろで、普段よりは荒い呼吸が聞こえていても。啓介の最奥に挿れられたモノは、ただゆっくりと抜き差しを繰り返しているだけで。
 時折思い出したように肌を掠めていく、やる気のないような指先の感触からも、なにひとつ。相手の内は伝わって来ない。
「んっ‥ふ、ア‥‥ッ」
 ―――なのにどうして、こんなに良いんだろう。

 相手の性分から考えても、焦らすのが楽しいとか声が聞きたいとか、今更そんな殊勝な思考があるとは思えない。このセックスと同じで、いつだってどこ吹く風で。なのに。

「他所ごと考えるのは――‥」
 低音の囁きが、直に腰に来る。
「ダメだって言ったでしょ? 啓介さん」
「んっ‥‥」
「今日はオレの誕生日だから、何でも言うコト聞くって言ったじゃん」
「‥―――ッ!!」
 身体ごと抱きかかえるみたいに引き寄せられて。結果、より深く受け入れる事になり、緩慢な波に慣らされていた啓介は、声にならない悲鳴を上げる。
「‥‥ゴメンね。そんなに‥欲しかった?」
 明らかに笑いを含んだ声が、すぐ耳元で囁かれて。一瞬にして脳裏は真っ黒に塗り潰された。―――けれど。

「今すぐ‥‥欲し‥っ、け‥ど‥‥」
「‥‥けど?」
「‥な、にしてもい‥っ、なんでもいい‥‥っ」
 紛れもなく本心からそう叫んで、啓介は誘うように自ら背を反らした。
「やっぱコレ、最高のプレゼントだね」

 いつだって自分を自由にするくせに。
 わかっていて、わざとそんな台詞を口に乗せ、ようやく相手は動き出す。


 ―――仕方がない。
 首筋を這う口唇が、苦しいくらいに絡み付く腕が、同時に啓介を天国へ連れて行く。
 酷い男だけれど、この身体も心も全部コイツのもの。
 ―――だからいい。

 Present for you?




                    ―――END.



げっち師匠への誕生日プレゼントも兼ねまして‥(無言)
                 +++霜月桜花

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